CASE TOKYOでは7月11日(木)から8月31日(土)まで大原大次郎の展覧会「Recover」を開催いたします。Case Publishingのマニフェストである「表現としての本」。今回は、Caseから近年刊行された写真集/アートブックを新たな切り口で読み解きながら、大原とのコレクティブな作品を展開します。本を起点に循環し生成される表現を、ぜひ体験してください。


「ここに10冊ほどの本がある。どの本も同じ出版社から刊行された本のようだ。
本を手に取る。特徴のある装丁に包まれている。まずはパラパラとめくりながら、それがどんな本なのかを眺めてみる(本はいきなり「読む」というよりは、最初は全体をなんとなく「眺める」とか「様子を伺う」というような印象がある)。
ところで、本をパラパラめくりながらふと気になるページがあって戻って確かめようとすると、見当違いの場所にあったり意外と見つからないのは一体なんなんだ。あとみんなの「パラパラとめくる」はどれくらいの速度感なんだろう。

知覚研究によると、視覚においてその輪郭や位置関係をおおよそトレースするのは、平均して約7秒だそうだ。10秒程度。試しに1ページに10秒以上かけながら本をめくってみる。そうすると「眺める」というよりは、「読む」ようなスイッチが入ってくる。
さらに少し方法を変えて、今度はページを描き写してみる。忠実に模写をするというよりも、「眺める」と「読む」の間くらいの感覚で、試しに10秒程度で描いてみる。「絵」にならず、感じている印象になかなか追いつかない描線。それでもあきらめずに、できれば一冊まるごと描写を繰り返してみる。
ようやく一冊描き終えると、自分がめくっていた本とは別物のなにかが横に積みあがっている。不完全ななにか。なんだこれ。
忘れたころに、積み上がった紙を束ねてパラパラとめくってみる。足りないものだらけ。なのに、なぜかいろいろなものがじわじわと回復してくる。その呼び起こされる感覚や記憶を、記録してみる。記録はきれいな紙に入魂の清書ではなく、描いては消して眺められる黒板がいい。

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【recover】の本来の意味は「回復する・取り戻す」などですが、加えてここでは本の表紙を意味する【cover】と、主に音楽の世界における(原曲を他者が演奏・歌唱する)【cover】の意味をかけています。

音楽における【copy】【cover】【remix】などの手法は、原曲に対する複製・再生産においては重複する部分もありながら、それぞれ原曲や作曲者との距離感や精神性は異なります。

原曲に対して、編曲やリズムアレンジなども入れずに演奏や歌唱を行う【copy】の手法 ――例えば耳コピーや採譜、衣装や身振りなどに至るまでの忠実な再現は、絵画におけるスケッチやデッサン、模写などに類似点があります。その点では表現技法というよりも、技術習得のための基礎的手法であるとも捉えられます。

【cover】には、copy的な手法をたどる過程や出力に、独自の解釈やアレンジ、再構築などが含意されてきます。【recover】においては、現物を忠実に再現したり似せることを終着点とするのではなく、表現技法・構造・思考などを身近な描画材で辿る身体感覚に重きを置いています。

【remix】は原曲を素材として、主にトラックやフレーズを再編集・再構築することによって楽曲を制作する手法を指しますが、原曲のサンプリングや加工による構築に留まらず、別の曲との掛け合わせやフレーズの加減算、弾き直し、新録を重ねるなど手法は楽曲ごとに多様で幅広く、そのアプローチの相違自体がremix楽曲の固有性や独自性と繋がっています。【recover】の【re】には本体の意味である「再び」のほか、【remix】【reserch(調査)】【relation(関係)】【record(記録】【reaction(反応)】などの意味を集約しています。

今回の展覧会では、Case Publishingから近年出版された写真集やアートブックを【recover】の手法を通して眺め、読み、描写します。現物の出版物も会場でお手にとってご覧いただけます。

ー大原大次郎


Artist

大原大次郎 Daijiro OHARA

1978年神奈川県生まれ。2003年武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業。タイポグラフィを基軸とし、グラフィックデザイン、ブックデザイン、イラストレーション、CI、映像制作などに従事するほか、展覧会やワークショップを通して言葉や文字の新たな知覚を探るプロジェクトを多数展開する。近年のプロジェクトには、重力を主題としたモビー ルのタイポグラフィシリーズ〈もじゅうりょく〉、ホンマタカシによる山岳写真と登山図を再構築したグラフィック連作〈稜線〉、音楽家・蓮沼執太、イルリメと共に構成する音声記述パフォーマンス〈TypogRAPy〉、YOUR SONG IS GOODの吉澤成友と展開するライブプリントとドローイングによる即入稿セッション〈New co.〉などがある。受賞に、JAGDA新人賞、東京TDC賞。武蔵野美術大学、京都造形大学、東京藝術大学非常勤講師、美学校講師。編著に『作字百景』(グラフィック社)、共著に『稜線』(between the books)、『ハロー風景』、『New co. – KAKUBARHYTHM Graphic Archives-』。http://oharadaijiro.com/