Where We Come From and Where We Might Go

中西敏貴
判型
320 × 255 mm
頁数
120頁、掲載作品56点
製本
ハードカバー
発行年
2025
言語
英語、日本語
ISBN
978-4-908526-62-6

「ここに並ぶ写真は、北海道を賛美するものでも、土地の歴史を語るものでもない。ましてや、感情を表現するためのものでもない。私がまなざしを向けてきたのは、自然そのものというより、そこに刻まれてきた人の営みや制度の痕跡、そして、それを形づくってきた社会の構造だったのだろうと思う。」
― 中西敏貴

写真家・中西敏貴による最新作は、自身の暮らす北海道と真摯に向き合い続けてきた集大成であり、『オプタテシケ』(2023、Case Publishing)、『地と記憶』(2024、Case Publishing)に続く「北海道三部作」の最終章を飾る一冊。

三部作を通して中西は、北海道という土地に内在する時間と記憶を、独自の風景写真の手法で捉えてきた。『オプタテシケ』では、人類以前の北海道を、まるで異星で撮影されたかのような写真で想像し、『地と記憶』では、北方から渡来したオホーツク人を主題に、遺跡を辿りながら彼らが見たであろう風景を探った。

本作では視点をさらに転じ、主に北海道の火山群を撮影。あらゆる生命の起源であり舞台でもある自然の姿を通して、人間の世界認識や文明形成に自然が与えてきた影響を探求している。

「風景を風景として眺める態度を変えなければ、新しい道は開けない。風景という言葉につきまとった古い風景感覚から脱皮しないことには。―日本人は意外に言葉を感覚的にうけとりやすい」。日本人初のハッセルブラッド国際写真賞を受賞した濱谷浩の言葉である。彼は風土という言葉を敢えて使い、1960年代に自然について思考し、「日本列島」の撮影に挑んだ。今から60年以上前とは愕くべき事実であるが、その動機を「人間が人間を理解するために、日本人が日本人を理解するために」と、記している。自然と人間の秩序や均衡を模索し、自然を見つめることによって人間観を構築する。これは中西が写真家として生涯をかけて取り組んでいる風景写真の概念に抵抗するという挑戦と、ぴたりと重なる。

中西敏貴の三部作の締めくくりとなる本作は、メインモチーフに火山を据えた。生命体も存在しない何百万年も昔に立ち返りたかったからである。生命体の誕生という発生時点に遡れば、違うスケールで世界を眺めることができるのではないか。とてつもない自然というものを前に、ディテールではなく大きな視点で世界を捉えることはできないか。自然は連続していて、そこに境界線はない。分断は人間の暮らしの中で生み出されたものである。この気づきは今の時代を紐解くきっかけになるはずだ。そんな強い意志が込められている。

― 梶川由紀(キュレーター)