生々流転

百々武
判型
250 × 260 mm
頁数
190頁
製本
ソフトカバー
発行年
2021
言語
英語、日本語
エディション
500
ISBN
978-4-908526-44-2

森と吉野川源流の村に暮らす人々の姿を活写した
魂の作品群

吉野川(紀の川)の源流に位置し、手つかずの原生林が広がる、奈良県南東部の川上村。室町時代から500年続く日本でも有数の林業が盛んな土地であり、吉野川源流の豊かな水源は、戦前から戦後の高度経済成長を支えてきた。現在では人口約1300人の限界集落であるが、それでも森とともに源流を守り、先代からの暮らしを受け継いでいる。

2017年に写真家・百々武は家族と一緒にこの地に移住した。
本書には、移住してから2020年までに撮影された作品が収録されている。
巻末には映画監督・河瀬直美の寄稿を掲載。

川上村の自然と人々の姿を通して、百々が本書に込めた思いを、shashasha YouTubeチャンネルでご覧ください。

百々 武が川上村に移住すると聞いた時、もう随分前に川上村の“匠の聚”という芸術家村で武と一緒に居た日のことを想い出す。それは西井一夫さんという写真評論家の最期の日々を見つめた映画上映会の準備をしていた時だった。彼は、あちらこちらに気を配る青年で、密かに私は旅をするなら彼と一緒にと願ったものだった。武は「百々 俊二」という写真家の次男として生まれた。随分癖のある父の元で写真に携わる仕事をするまでの時間を私は知らない。が、兄の「百々 新」という3つ年上の写真家も居る「家族」という空間にいて、武はその眼差しの中に幼い頃からとても客観的なものを持ち得る人であったに違いないと思う。我の強い「父」と、いつまでも追い越せない「兄」との距離にあって、武が自らを表現する世界に足を踏み入れる瞬間はきっとどこか私たちの知らない場所に降り注ぐ「光」の存在に気づいた時だったように思う。何が起こっても、こういった類の「光」はこの世界に存在し続けると、疑いもなく思う瞬間が人生には幾度となくある。それを人は「希望」と呼ぶのかもしれない。武のまなざしはこの度、こうした「光」を伴って、川上村の春夏秋冬を通して発見され、「生々流転」の中に刻まれた。都市部からは忘れられたかのように過疎の進む村が遠く縄文時代から人の暮らす場所であったことがわかった時、私たちの中に、それを懐かしむ気持ちが沸き起こる。見たことも会ったこともない人がいたのだと信じられるこの土地には、連綿と受け継がれてきた行事や人の繋がりがある。それは満員電車に揺られて過ごした都会生活の便利さ以上の豊かさを武に思い起こさせる。毎日違う景色の中でそれらの光景が「ただならぬもの」として目に飛び込んでくる。愛おしむように自らを取り戻しながらシャッターを切った写真の中には、風景とともに「人」が存在する。これらの人の顔に刻まれた皺には歴史が見て取れる。祝い事の後には必ず「ごくまき」という餅まきの習慣がある。手から手へ渡してゆく文化。五百年前から続く林業は、子から孫へ五十年先、百年先のまなざしを持って受け継がれていく。どんなに厳しい雪の季節であっても、やがて咲き誇る桜を愛でる日を待つ人々の心には、終わりと始まりを知る「希望」が宿っている。武には霧が水滴になって、やがて川となるように、過疎が進むこの時代の変化を受け入れ生きてゆく川上村の人々に宿った「光」が見えたのだろう。歴史の狭間の「記録」がここに誕生した。この物語を大切な人へ繋いで欲しいと願う。

― 映画監督 河瀬直美