ノクトクローム
渡部さとる
- 判型
- 230 × 345 mm
- 頁数
- 72頁
- 製本
- ハードカバー
- 発行年
- 2026
- 言語
- 英語、日本語
- ISBN
- 978-4-908526-64-0
日暮れに相手の顔がはっきり見えず、「あなたは誰?」と尋ねた時間帯を黄昏時(たそがれどき)と言い、これは古語の「誰そ彼(たれそかれ=あれは誰だ?)」に由来している。そして同じように、夜明け前の時間を「かわたれ時(彼は誰時)」と呼んだ。
これらは昼と夜、夜と朝の境界を表している。
古来、日本では夜に禍々しいものが跋扈し、それらは夜明けとともに消えると考えられていた。しかし現代の都市生活においては、夜と朝を分ける時間を感じることは難しい。
屋久島の森であれば、「かわたれ時」を捉えることができるかもしれない。
夜が明ける前、まだ闇が支配する森へと足を踏み入れる。騒々しいほどの虫の音が聞こえる中、小さなライトを頼りに奥へと進む。足元を照らしていた光を前方に向けると、丸く切り取られたように森が浮かび上がる。新月の時期には、ライトを消すと自分の手すら見えないほどの漆黒に包まれる。
やがて、空と森の境がうっすらと見え始めると、虫の音がぴたりと止み、代わりに鳥のさえずりが響き始める。それが夜明けの合図だった。目を凝らすと、木々の輪郭がぼんやりと立ち現れてくる。そこに広がるのは、色を持たない世界。僕はその時間を「Noctchrome(ノクトクローム)」と名付けた。
それは、夜と朝とをつなぐ、ごくわずかな時間に現れるモノクロームの世界。
花の匂いが漂い始めると、森に色が戻ってくる。それは、朝の始まりであり、地上にエネルギーが満ちていく時間でもある。
― 渡部さとる











